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幕末維新備忘録

幕末から明治維新に関する備忘録

座牢でイカを釣った西郷隆盛

西郷隆盛沖永良部島の座牢にいたころ、釣り具の手入れをしていたことがある。それを見ていた土持政照(間切横目:看守)は、見馴れない道具があったので、「どのように用いる釣り具か」と西郷に訊いた。

「座敷にいながらイカが釣れる不思議な道具である」
と西郷は答える。

これを聞いた土持は、ああいつもの冗談だろうと聞き流すのだが、西郷は真面目な顔でイカが釣れると主張し続けた。

その翌日。
西郷は、二匹のイカを示して、
「昨日言ったとおり、イカが釣れました」
と土持に言った。

西郷が座牢からでることはできないし、まさか座敷でイカが釣れるとは考えられない。どのようにしてイカを捕まえたのかを訊いても、西郷はとぼけてばかりいる。

繰り返し問いただして、真相がやっとわかった。

「昔、徳之島で知り合いになった漁夫がここへ来たから、イカの釣り具を二つ貸したのである。そのあと貴方が来たから、戯れに座敷でイカが釣れると言ってみたのだ。その漁夫が帰ってきて、置いていったのがこのイカである」
と言って西郷は肩を揺らして笑ったという。

 

沖永良部島に流されたときは、悲惨な時期だったにもかかわらず、彼は天性のユーモアのセンスを発揮して、滅入るような空気を笑い飛ばしていた。いかなるときにあっても余裕綽々としていたからこのような芸当ができたのかもしれない。このユーモアは、彼の魅力である。