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幕末維新備忘録

幕末から明治維新に関する備忘録

夫れ主将の法は、務めて英雄の心を攬《と》り有功を賞禄し、志を衆に通ず――北条早雲の人心掌握

北条早雲(正式には伊勢宗瑞《そうずい》)は、『三略』の一節、「夫れ主将の法は、務めて英雄の心を攬《と》り有功を賞禄し、志を衆に通ず」を聴いただけで、了悟した、と言い立ち去ったという逸話がある。


ではどのようにして、英雄の心を掴もうとしたのだろうか。早雲は豪傑と結ぶためならば、散財を惜しまなかったという。

志を衆に通ず 

そんな早雲はある日、
「功名を成し、富貴を取るのは、今でなければ何時になろか。関東の地勢は堅牢であり、武人も軍馬も精強だ。古より武を用いる地と称している。それが今では定まった君主がいない。ここを割拠とすれば天下を望むことができる。我は諸君とともに東へ行き、機により変を制し、策謀を用いて勢力を樹立させようと欲する」と宣言すると、聴いていたものは奮ってこれに賛成したという。


一見すると野心を披瀝したように感じるが、配下の武人たちは民政家としての手腕を知っていたから賛同したのだろう。しかも戦功に対する賞禄を惜しまないのだから、彼らも関東攻略を望んでいたのだろう。早雲の志は、衆に通じていたのだ。



早雲は終わりに臨んで、息子の氏綱に語る。

「今我が領地は多いわけではないが、蓄財を散じて、四方の士を養えば、それにより二世を支えられる」


そうすれば三世もすれば、互いに争っている両上杉(山内・扇谷)の家運も衰え、北条家は坐りながらにして大きくなれるだろう。だからといって侮って上杉を攻めてはならない。彼等が疲弊するまで忍耐せよ、と上杉氏を滅ぼす志を託している。そして家訓書を渡した。

早雲の家訓書についてはいずれ触れたいとおもう。

 

三略 (中公文庫BIBLIO S)

三略 (中公文庫BIBLIO S)