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幕末維新備忘録

幕末から明治維新に関する備忘録

三年鳴かず飛ばず――人材を見きわめる荘王の方法

中国の春秋時代は、孔子が編纂した史書『春秋』に由来する時代区分。

当時の王室「周」が衰微しはじめ、異民族におびやかされてしまいます。そこで諸侯のなかでも実力あるものが覇者(リーダー)として尊王攘夷(王室の奉戴と異民族の撃攘)にあたります。しかし諸侯が覇権を争い、内乱が起こった血なまぐさい時代であります。

だからこそ、孔子は大義名分を明確にし記述する必要があったのです。

春秋左氏伝〈下〉 (岩波文庫)

人材をみきわめるための酒宴

覇者となった人物の一人に、楚の荘王(そうおう)がいます。彼ははじめ、諫める者は殺すと宣言して、政治をかえりみることなく遊びふけます。即位から三年経過したころ伍挙(ごきょ)が荘王に謎かけをします。


「鳥が皐(おか)にあり。三年のあいだ飛ぶこともなければ、鳴くこともありません。一体、どんな鳥でしょうか」

 

それを聞いて荘王は、

「この鳥は飛べば天に昇り、鳴けば人々を驚かすだろう。言いたいことはわかっておる。下がっておれ」

と答えます。

 

さらに後日、蘇従(そしょう)という人が荘王のところにきて切諌しました。「諫める者は殺す」という宣言をおそれずに王を批判しはじめます。

蘇従の言葉を聞き、荘王は立ち上がります。阿諛追従していた佞臣を退けるのです。三年のあいだ遊び耽っていたのはだれが佞臣で、だれが人材かを見きわめるためだったという。

そして伍挙と蘇従を中心とした政治をはじめ、他国の優秀な人材を招聘し、最終的に春秋五覇の一人となります。

傲慢さと野心のために楚にたいする反感がうまれた

しかし残念なことに荘王は周の王室を尊重していなかったため、「鼎の軽重を問う」、つまり王室の宝としていた九鼎(きゅうてい)の重さをたずね、持ち運ぶ野心を露呈してしまい、諸侯に反感を抱かせるのです。

荘王がなくなると、楚を批判する声は強くなる。(能力で荘王に及ばない世子が、その傲慢なところをひきついでいたため)。

 

傲慢な態度をみた賢人・子産(しさん)は言います。
「吾はもう楚を心配しない。威張りくさって諫めに耳を傾けぬ。十年ももたぬでしょう」
左師はこたえる。
「その通り。十年は威張らせぬと、悪はひろがらぬもの。悪がひろがってしまえば、あとは見棄てられる」