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幕末維新備忘録

幕末から明治維新に関する備忘録

児孫のために美田を買わず

児孫のために美田を買わず――

この詩句は西郷の清廉さを表現しただけではなく、自らを戒める言葉でもあり、
「この言葉に違えるようなら、我は言行一致せぬものの譏(そし)りを受くるも可である」と西郷は語っていた。

 

つぎに示すエピソードは、この詩が彼の真情から発せられたものであると証明している。

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貧民こそが真の国家の柱石である


鹿児島の川辺という所に、良質な田畑が売りに出されているということで、西郷夫人は購入をすすめられた。

西郷にこの話をしたところ、
「われらの子供で誰がもっとも愚かであるか」
という予想外のことを訊いてきた。

 

返答に困る夫人を見て、西郷はさらに言う。
「どの子がもっとも魂が入らぬか」

 

夫人はなにも言えず、黙ってしまう。

 

「わが家族が為すこともなく生活していられるのは、これを誰の恩と思うか。みな人民の課税から出た資のおかげである。これを思うからこそ、外出して人の顔を見るたびに自分は心苦しく思っている。われ今日にいたっても絹布を身につけぬは、畢竟この心から出るのである。わが家族はこの点を思わねばならぬ」

 

それから数日後、つぎのように語ったという。

 

「われ外出するとき、路上多くの貧人に逢うが、彼らはみなあくせくして政府に税金を納めている。われは却って為すことなく安泰に生活している。これ実に痛心の至りである。彼ら貧民の子弟こそ、真の国家の柱石である。われらにして美衣美食美居を望めば、それは論外の沙汰である。わが子らにもし愚鈍の者がいて、魂の入らぬ者あらば、田畑を購い置くべき必要もあろうけれど、幸いにもみな人並みの子であるから、成長してから、それぞれ相当に自活の道を立てて行くであろう。だからこそ、田地を買うべき理由は少しもない」