hikaze

幕末維新備忘録

幕末から明治維新に関する備忘録

吉川英治さんの随筆


 吉川英治さんの作品が青空文庫 で読める。便利な時代だ。そして随筆が読みやすいことに驚いた。たぶん、小説ほど文体にこだわってないからなんだろう。内容も、おもしろい。

 
 足利家と水戸家の言い伝え

 足利尊氏が逆賊と決定づけられたのは、水戸藩で編纂した大日本史からだった。しかし、その水戸家の徳川斉昭の11番目の子が、足利家の養子になっているというのだ。逆賊だ、と評した水戸家から、その逆賊だと評された足利家へと養子に行く。そこで足利惇氏(あつうじ)氏が、足利家にも水戸家にも、ある言い伝えとして説明する。

「(大日本史の)編纂を督(とく)した水戸光圀水戸黄門)も後では少々尊氏に気の毒だと考えたのか、こう遺言しておいたというんです。……これでは後世、足利家に男子のない場合は、三百諸侯から養子の来人きてもあるまいから、断絶になる。そんな時には、必ず水戸家の男子一名を遣やるがよい、と」――『随筆 私本太平記』――

 

二度獲られた首

 水戸家といえば、桜田門外の変井伊直弼を襲撃したことが有名ですね。その井伊直弼の首は”二度”獲られた、と『折々の記』にある。
 明治に入り、開国したことで、旧彦根藩から、

 

井伊直弼といふ人は非常に先見の明があつた、今日、井伊大老の理想としたやうな時代がきたではないか、だから銅像を建てて表彰したいといふ運動を起したーー折々の記』――

 

 そうだ。すると、旧水戸藩出身の人が、反対した。銅像を建てようとする計画をことごとく妨害する。それで結局、旧藩地へ建てるなら苦情がないだろう、ということで掃部山に建て、盛大な除幕式を行った。しかし、除幕式から数日後、銅像の首がなくなっていたという。後日、犯人が捕らえられ、新聞には水戸方のしたことだと伝えられていたそうだ。


 小説では人物像をわかりやすくするため、一面しか書けない。けれど随筆では、人物の裏話もできる。とくに、吉川英治さんのように、つねにキャラクターを考えながら書いた人は、歴史家とはことなる目のつけどころがあり、また小説でつちかった語り口があり、それがおもしろみにもなっている。

  

 余談ながら、このおもしろみを存分に発揮したのが司馬遼太郎さんじゃないかな、と僕はおもう。本筋から外れた逸話を盛り込むことで、作品が多面的になり、フィクションとリアリティが混在して、小説以上の価値を小説に与えたんだと。

 

余談ばっかり  司馬遼太郎作品の周辺から

余談ばっかり 司馬遼太郎作品の周辺から

 

 

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